第1回 問題解決に直結する効果的なヒアリングのコツ

コンタクトセンターマネジメントにおける様々な指標=KPI。稼働率、コンタクト率、生産性、業務知識習得度、応対品質、欠勤・遅刻率など、全てに問題がないコミュニケーターはいないと言っても過言ではないでしょう。しかし、問題を改善し、センターの利益や品質向上を目指したい。そのためには、コミュニケーターへのヒアリングで、課題の根底にある真因を掴み、解決に導くことが必要です。その際の心構えと手法について考えます。


苦手を得意に変えるのはしんどい

私が常駐していた獲得系コンタクトセンターにおいて、驚異的な生産性を誇るコミュニケーターがいました。受電の生産性の一時間当たり平均が14本。1本処理をすると売上となるパーコール制での契約ですから、稼ぎ頭としてはありがたい存在です。しかし、獲得率のセンター平均が75%であるのに対し、彼女は63%。また、案内不足からクレームに発展する通話もあります。

 

例えば、彼女に対し「生産性を維持したまま、獲得率を平均以上にし、クレームもなくしなさい。」と指導をしたとしたらどうでしょう。まず、後処理時間・通話時間ともに伸び、14本という生産性は期待できなくなるでしょう。さらには、苦手なことに注力しなければならないという思いがストレスとなりかねません。

疲れる生き方は、決まって「不得意を克服しようとする生き方」です。自分に向いていないことをするのですから、無理な力ばかりが入ります。当然、疲れやすくなります。その結果、成果が出ないまま得意な面が潰れてしまうという最悪の結果にもなりかねません。とは言っても、運営上の問題点を放置するわけにはいきません。それでは、得意なことを維持しつつ、課題を改善していくためにはどうしたらいいのでしょう。

報徳思想から学ぶ人材育成

図―①
図―①

「キュウリを植えればキュウリと別のものが収穫できると思うな。人は自分の植えたものを収穫するのである。」二宮尊徳の名言です。

 

農村復興政策を通じ、私利私欲に走るのではなく社会に貢献すれば、いずれ自らに還元されるという「報徳思想(ほうとくしそう)」を説いた人物であることはあまりにも有名です。

 

「報徳」とは、論語の『徳を以って徳に報いる(以徳報徳)』が由来で、尊徳の言う「徳」とはれぞれの長所、潜在的な力を意味します。それぞれの徳を掘り起こし、連係させ、生産性を高め、循環性を効率化し、生活・生業の創造性と安定性を追求する作業が報徳思想を実践する=「報徳仕法」の基本です。図―①は報徳思想に基づいた、佐々井典比古作「万象具徳」という詩です。

「どんなものにもよさがある どんなひとにもよさがある よさがそれぞれみなちがう」で始まるこの詩には、個性もそれぞれで多くの人が集まるコンタクトセンターの人材育成のヒントが満載です。つまり、苦手なことを得意に変えるのではなく、得意なことに一生懸命に取り組み、自分が得意なことがうまくできない人を助ける気持ちを持ってもらうこと。これをうまく循環させることで、全体最適を目指すのです。

人はマイナスに傾きやすい生き物

私が在籍してきた大多数のコンタクトセンターでは、センターのKPI平均値や個別指標を開示していました。それをコミュニケーターはどのように捉えているのでしょうか。

「平均より上で良かった。」よりも、「どうしよう、これが平均以下だった。」というネガティブな声がよく聴こえてきます。人の感情は、マイナスに傾きやすい性質があります。

 

心理学者のR.Plutchik教授が考案したプルチック理論では、人間には8つの基本感情があり、それが組み合わさって24種類の感情が出来ると考えられています。その中で、プラスの感情はわずか8つしかないのです。感情は物事が起きた瞬間に湧き出てくるものです。つまり、叱咤激励するつもりで数値を公開するだけでは、瞬間的にマイナスに傾きモチベーションが下がるリスクが高いということを肝に銘じたいものです。ここをプラスの感情になるよう、ヒアリングなどでコントロールすることが必要です。

キーワードは平均範囲「内」

プラスして、平均範囲「内」という考え方を持つことも大切です。例えば、獲得率が伸び悩むコミュニケーターの通話をモニタリングし、キラーフレーズ(この言葉を言えば成約に繋がる等)が見つかったとします。まずは、それを言ったら、どの程度通話時間が延びるのかをシュミレーションします。

 

そして、プラスとマイナスの影響値をコミュニケーターにしっかりと伝えるのです。図―②は、「ラブレター」と言いながら、ヒアリング時に渡した用紙です。センターの平均値と比較して、自分がどの指標でどの程度成果が出て貢献できているかや、改善目標と、改善することで数値がどう変わるのかを明確に書いています。

 

ポイントは、どこまでマイナスになっていいのかをわかりやすく伝えることです。数値が下がることに対して、コミュニケーターはとても敏感です。どの程度が平均範囲内なのかを明示することで、数値が下がってもメンタル的な影響が出ないよう安心させるのです。また、数字は手書きにしていますが、「ちゃんとあなたと向き合っているよ。」ということを伝える効果もあります。

みんな頑張っている

私がヒアリングをするコミュニケーターはよく泣きます。叱責をするからではありません。例えば、クレームを起こしたコミュニケーターに問題点を提示します(この言葉でお客様はお怒りになったのよね、語尾の音声表現がキツイのからよね、等)。

忘れたくないのは、言葉の裏には気持ちがあるということです。『なぜ』お客様をとがめる言葉や語尾の押しが出てしまったのか。そこをヒアリングするのです。「ひょっとして、何か嫌なことがあったの?」「体調が悪いのかしら。あなたらしくないじゃない。」と、真因を探る言葉を投げかけると、ほっとした表情になり、それぞれ銘々の思いを語り始め、そこで泣くのです。

 

カーネギーの「盗人にも五分の理」という言葉がありますが、言い訳であろうが、筋が通っていまいが、まずは相手の気持ちを把握し共感する。気持ちが伝わったという安堵感が信頼感に代わり、だからこそ指導を受け容れようという姿勢を促すことが出来るのです。

コールセンターはストレスの多い仕事です。メンタルダウンや精神的なものから来る病気など、たくさんのコミュニケーターが苦しんでいる姿を見てきました。頑張っていない人は誰もいません。まずはしっかりとねぎらってあげるのです。コミュニケーターを「認める」こと。ヒアリングの際に忘れてはいけないことは、この一言に尽きると感じます。

効果的なヒアリングのための具体策

まとめると、

①得意な面を把握する

②改善点は平均範囲内の目標値を設定する。

③改善点を平均範囲内に設定した場合のKPIへの影響をシュミレーションする。

④改善目標は具体的に数字で提示し、マイナスの影響値も具体的に伝える。

⑤頑張っていることを認める。

 

以上が効果的なヒアリングを実施するための5つのポイントです。手間もかかり、遠回りに感じるかもしれませんが、コミュニケーターに感謝し、尊重することが、結局は継続的な成果を出す=人を育てるたった一つの道なのだと感じます。