人が商品となるコンタクトセンター。しかし、コミュニケーターに求められる能力や職場の環境は、事務職や販売職等とは一線を画す独特なものと言える。職務や環境に適正がない人を採用しても育成に限界があるのは皆さんも感じところであろう。採用時に適正を見極めるポイントや留意点について考えてみよう。
適性の低いコミュニケーター
某医食品メーカーのコンタクトセンターに在籍していたときのことだ。管理者3名、オペレーター10名という小規模の体制であった。これまで応対品質の教育をしたことがないとのことだったのだが、コミュニケーターのスキルの高さに驚いた。お客様を大満足させる応対とまでは言えないが、基本は出来ていて、クレームを生んだりすることはない品質であった。
しかし、一人だけそのレベルに達していないコミュニケーターがいた。Nさんだ。私がこのセンターに初出勤すると、隣の席に座ったNさんの応対が聞こえてきた。
一言で言うと「無機質」な応対であった。。
Nさんは、2年ほど勤務していた。業務知識は完璧で、処理も的確。対面で話した印象は、いたって普通。素直で笑顔もあり、悪い印象はなかった。しかし、声だけを聞くと、語気が強く、淡々としているような印象となってしまうのだ。そして、共感力が高くなかった。お客様のおっしゃることを取り違えてしまったり、気持ちに反するような言葉を口に出してしまいがちだったのだ。そのため、応対クレームを発生させる唯一のコミュニケーターとして、管理者は頭を悩ませていた。そこで、重点的に指導をして欲しいという依頼があり、私はこのセンターに在籍することとなった。
自発性の大切さ
早速、私はNさんのモニタリングを実施し、フィードバックをした。クレーム通話を一言一句書き起こし、お客様がお怒りになった点をピックアップして、ひとつずつ丁寧に原因と対策を話し合った。
彼女の視点は、常に「自分」にあった。自分が発した言葉が「相手」にどう届き、「相手」がどう感じるかという点について、全く無関心だった。
さらに、対面で話している普段の声と電話の声色が全く同じなのである。接「客」というスタンスで、お客様に関わる心がこもった声色がどうしても作れなかったのだ。対面であれば表情や身振りも加わるため、多少音声表現が乏しくてもカバーできる。しかし、声だけでは淡々としている音が相手にダイレクトに届くため、印象が悪くなってしまうのだ。
しかし、彼女からは、今後こうしていくという具体的な案は出なかった。私から「こうしろ」と指示をすることは簡単である。そして、彼女は言われたことは的確にこなすことができたので、印象の良い応対をすることは一時的には可能であろう。しかし、自発的な案でなければ、継続的かつ根本的な改善に繋がる見込みは無い。
コミュニケーションは、一方通行では成り立たない。相手に関心を持ち、積極的に関わりあうことにより、よい関係性を気づくことが出来るのだ。相手に関心がなかったり、自発的に相手に関わる姿勢が乏しくては致命的だ。そう判断した私は、管理者に、彼女は適正がないと告げた。そして、残念ながら彼女は退職することとなった。だが、それはWIN-WIN-WINの形であると確信する。適正がないまま仕事を続けるのは本人のためにはならないし、お客様にも会社にとってもデメリットである。
適性を見極める重要なポイント
Nさんが採用された際の基準について確認したところ、明確なものはなかった。面接で話した印象と、簡易的なエクセルやワードのテストの結果で採用を決めたそうだ。対面ではNさんの印象は悪くなかったし、処理能力も高かったので納得した。
しかし、お客様は電話の向こうで、音声のみで相手の人柄を判断し、快・不快という感情を持つ。そして、そのうちの不快な感情が積み重なり、クレームに発展する。そのため、適性を見極めるには、実際に電話を通して声を聞き、その印象で判断することが思いのほか有効なのだ。もちろん、処理能力も大切な要素ではあるが、対話をしている時点でお客様はそこまで思い及ばない。さらに言えば、たとえ処理が遅くても、間違ってしまったとしても、対応の誠実ささえあれば乗り切ることは出来る。
図-①は、アルバート・メラビアンが提唱した「メラビアンの法則」である。人が初対面時に、2つ3つ言葉を交わした際に、相手の印象を決める要素の割合について述べたものである。注目していただきたいのは、人が相手の印象を決めるのは、半分以上は視覚が関わってくるということである。これが何を意味するかというと、コンタクトセンターでは、この半分以上の領域が無いというハンデを背負っているということだ。
つまり、視覚を奪われた残り45%の「聴覚」だけの領域で相手と対峙するので、音の表現が良いことが求められるさらに、「語調」と「言葉遣い」の割合にも着目していただきたい。「語調」とは、抑揚、スピード、間合いなどの音声表現である。言葉遣いががどんなに美しくても、音の表現が良くなければ印象が悪くなることを表している。
図-②は、募集時に採用希望者から連絡を受けた際の評価シートである。ごくごく簡易的なものであり、事務的な内容を数分話したものを評価するだけなのだが、これがかなり役に立つ。
「音声表現」では、音の抑揚はどうか、語尾は強くないか、スピードは合っているか、などに着目して欲しい。そして、「応え方」については、謝辞やクッション言葉、言葉遣いなどから、採用側が不快に感じないようにという気遣いがあるかどうかを見極める。
そして、必ず質問をすることが重要だ。質問の内容は何でもよい。ただし、「どのような経緯で応募しようと決められたのですか」「面接時にはどのようにいらっしゃいますか」など、かならず回答をしてもらえるように働きかける。そして、回答の内容よりも、その「音声表現」と「応え方」を聞き分けていただきたい。
これらの視点から通話を捉え、印象を5段階で評価する。
このシートを使い、全く面識が無い人間と、ほぼ用件のみを話し、声だけでジャッジをする。よくよく考えると、この状況は、お客様がコンタクトセンターに電話をしてきたときとよく似ていることに気づいていただけるだろう。だからこそ、このシートが威力を発揮するのだ。
エネルギーを感じ取る
皆さんは「言霊(ことだま)」という言葉をご存知だろう。言葉に宿る霊性=エネルギーという意を持つ。そのエネルギーを常日頃私たちは感じながら人と関わり合っている。採用する際には、ぜひこの点に着目していただきたい。どのようなエネルギーを相手が持っているかを率直に感じて欲しいのだ。
私は、このシートを取り入れ、採用活動を始めた。面接時での印象も加味し、エクセル・ワードのスキルについてもチェックしたが、やはり募集時の電話の印象が良い人が成長するという傾向が強い。
初めに多少スキルが劣っていたとしても、時間をかければほとんど横並びになるものである。そして、そのスキルを「声」通してお客様サービスとして提供していくのがコミュニケーターである。
「心が技を超えない限りその技は活かされない」という言葉がある。どんなに覚えがよく、スキルがあったとしても、それを使うときの心持ちが良くなければ台無しになってしまうものである。
自ら良い関係を創っていこうという「心」を持っているかを、ぜひ「声」を通して判断していただきたい。それが、よい人材・成長する人材を採用するための極意なのである。