離職率が高いと言われるコンタクトセンター業界。さまざまな退職理由を耳にするが、その本当のところはどうなのか。話す言葉とは裏腹な想いを抱え、誰にも相談できずに退職を決めてしまうことも少なくない。退職を考えたときに、何とかして続けたいというモチベーションを与え、離職率を低減させるにはどうすればよいかを考えてみよう。
辞めるセンターと続くセンター
ある時期、私は2つの現場管理をかけ持ちしていた。どちらも料金の督促センターだ。センターAはコミュニケーター60名、管理者は10名程の中規模センター。もうひとつのセンターBは、コミュニケーターと管理者合わせて15名程度。勤続年数は、前者が平均2年半に対し、後者が5年1カ月と倍程度の開きがあった。
図1は、ある時期の2つのセンターの在籍者数の勤続年数を比較したものだ。前者の特徴は、中堅のスタッフが全くいないという点だ。つまり、ベテランになりかかった時点で退職してしまうので、いつまで経っても品質が安定しない。また、入社後3カ月間の早期退職率は45%と高く、予定ブース数の倍近い人員の採用が必要となり、コストがとにかくかかっていた。
さらには、採用しても辞めてしまうため、教育する管理者の工数が取られ、現場が回らないという悪循環となっていた。そして、退職理由は「業務が合わないと」いう内容が80%を超えていた。一方、後者については、一度の採用人数は少ないが、一度入ったらまず辞めない。辞める理由は家族の転勤や本人の結婚等、やむを得ない理由が多かった。
2つのセンターは、規模の違いはあるとはいえ同じ業務内容だ。前者の「業務内容が合わない」という理由に違和感を感じないだろうか。実は、この2つのセンターの決定的な違いは、全スタッフのコミュニケーションの「回数」にあったのだ。
退職防止のカギは本音の把握
センターBでは「日記帳」というものが存在していた。よくある普通のスケジュール手帳に日記を書くのだが、誰が書いてもよい。当番も決まっていなければ、内容も自由。ただ面白おかしく出来事を書く。それをスタッフ全員が回し読みをするのだ。毎日休みなく記入され、空く日はなかった。休憩中には、日記帳の話題で持ちきりになることもあり、全員が知っている話題なのでとても盛り上がった。内容はただの雑談だ。しかし、コミュニケーションの回数を積み上げることができたのが、この日記帳が果たした大きな役割であった。
スタッフはみな気の置けない仲となり、業務の悩みはもちろん、プライベートのこともざっくばらんに話すことができた。つまり、本音を吐きだせる環境となり、悩みを一緒に解決できる環境だった。実際に、退職したいという話を受けたときも、業務の問題であれば一緒に解決をしようと努めた。プライベートの事情であれば、シフトコントロールなど、対応できる部分で協力をした。その結果、退職率が低く、長く勤められる職場を創ることができたのである。
コミュニケーション回路
ここで、日本交通三代目社長の川鍋一朗氏の言葉を紹介しよう。日本交通は、ハイヤー業界売上高日本一。そして、川鍋氏は、社長就任と同時に1900億円の負債を背負い、その後見事に再建を果たした。彼はこう語る。
「好き嫌いの感情が、人の行動動機の原点であり、その後に行動の論理で自分を正当化する。コミュニケーションが成立するとは、結局、最初に「好き」になってもらえるか。「好き」とは、相手の感情を揺さぶることだ。論理が正しいとかは関係ない。質で揺さぶることもできないことはないが、難しく、量で勝負する方が、結局、相手の感情を揺さぶるのだ」
川鍋氏はこれを「コミュニケーション回路」と呼んでいる。例えば、初対面の人物に絶対的な信頼を持ち、自分の悩みを吐露しようと思うことはほぼないだろう。では、どのようなプロセスで、人は人を信頼し、深い話をしたいと思えるようになるのだろうか。
図2をご覧いただきたい。まずは、好意を持ってもらうことが始まりだが、お互いの事を何も知らない状態では、質で相手に好意を持ってもらうことはとても難しい。相手がどんな会話を好むかは、ある程度時間をかけないと把握できない。だから、まずは回数を重ねるのだ。1日1回は雑談をするなど目標を決め、どんどん回数を積み上げていく。そうすると、人は警戒心を解く。
そのプロセスを踏んだ後、深い話が出来るような信頼関係が構築される。この状態までくれば、「この人は、どんな悩みも受け止めて親身になって考えてくれる。」という気持ちが働く。その結果、本音に迫る事ができるのだ。本音を把握したならば、それに対しできる限りの対応をしていけばよい。それが退職防止に繋がっていくのだ。
雑談を計画的に
日記の事例は、少人数のセンターだからできたことだ。しかし、中~大規模センターでもコミュニケーション回路を開くことは可能だ。
図3は、そのためのポイントである。キーワードは役割分担と情報共有だ。人数が多い場合は、管理者が雑談をするコミュニケーターをあらかじめ決めておく。そして、その数人に対して図3のように計画的にコミュニケーションをとっていくことをお勧めしたい。
さらに、気づいた兆しを管理者で週1回程度共有をするとよい。
Aセンターではこの手法を取り入れた。担当制でコミュニケーターに接し、そして、エクセルファイルに、「誰が、いつ、どのような」コミュニケーションをとったかを記入し共有した。
その結果、3カ月以内の早期退職者が0名というところまで改善された。各コミュニケーターと信頼関係を築けたことと、正確にアラートをキャッチし対応できた結果である。
本音こそ退職防止の宝
サイレントカスタマーという言葉がある。人は、不平不満があっても、その90%は本音を語らない。そして、そのまま客として関わることをやめてしまうのだ。しかし、その本音の中にこそ真の改善課題が潜んでいるものである。これは、コミュニケーターに対しても同様である。
コミュニケーターをサイレントカスタマーにし、対策ができないまま人材を失うことは得策ではない。ぜひ、回数多くコミュニケーションをとっていただき、本音を引き出して欲しい。そして、退職防止につなげていただきたいと思う。