第3回 マイナス心を「やる気」に変える指導法

「やる気が出ません」「どうしても出来るようになりません」「私って向いてないのかな」――ヒアリングをすると、このようにマイナスな言葉を言うコミュニケーターは多い。言葉として出てくるならまだしも、鬱々とした気持ちを抱えながら仕事をしているものもいるだろう。コミュニケーターのモチベーションが下がると、欠勤、ミス、処理本数減少、クレーム発生などに繋がることは、皆さんも肌で感じているところだろう。コンタクトセンターの品質向上にとって大きな問題だ。

今日は、コミュニケーターのモチベーションを上げるための効果的なヒアリングを行うためにはどうしたらいいのかを考えてみよう。


人材育成のゴールは「自立」

図1
図1

図1は論語の一節である。私はこの言葉を人材育成方針としている。問題・障害を解決すべく、指示命令はいくらでもできる。

しかし、すべてのケースを把握し指示をすることは不可能だ。「腹を空かせた子供に魚を与えるのではなく魚の採り方を教える」という言葉がある。魚を与える親が居なくなったら、採り方がわからない子供は飢え死にする。

 

つまり、問題・障害の解決策を自分で考え、行動できるように育成しなければならない。では、そのような人材を育てるにはどうしたらよいのだろうか。

 

 

人は元来マイナス思考

図2
図2

図2はR.プルチック博士の「感情の一覧」である。人間の感情は、8つの基本感情と2点(2つの基本感情)の組み合わせからなる8つの応用感情から成り立つとしている。一見し、プラスの感情が少ないのに驚く。つまり、人は元来マイナスに傾きやすい性質だと言える。

 

以下は、コミュニケーターにありがちなケースである。

 

・応対クレームを起こした→お客様が間違ったことを言うから正したのに→怒り

・処理本数が上がらない→一生懸命やっているのに→失望

 

このような感情を抱くのは、人間であればごく自然なことなのである。しかし、このままではモチベーションは上がらない。このマイナス感情をやる気に変えるサポートをしていこう。

盗人にも五分の理

D.カーネギーは「人を動かす三原則」で「盗人にも五分の理を認める」と述べている。人の行動には何かしらの理由があり、その理由を認めれば人は動くのだ。

しかし、好ましくない行動の理由=“言い訳”を聞くと、「何を言ってるんだ」と相手を否定したくなることもある。

 

では、人はなぜ言い訳をするのかを考えてみよう。例えば、遅刻をした際、「電車が遅れた」「疲れていて寝坊した」などと大半の人は理由を伝えるだろう。これは、自己防衛をするためなのである。遅刻をしたことは悪いのはわかっている。だが、「それは大変だったね」と言って欲しい=免罪符が欲しいのである。そう考えれば、“言い訳”を受け止める心の余裕が持てるのではないだろうか。

 

まずは、行動の理由を掘り下げる。先の一番目の例で考えてみよう。

 

・応対クレームを起こした→お客様が間違ったことを言うから正した→ここで私が教えてあげないと誤りは正されない→だからお客様にキツく言った→それが暴言ととられるなんて納得いかない→怒り

このケースでは、正義感からお客様に暴言を吐いてしまったのだ。暴言は許されないことだが、「正しいことを伝えようとしたんだね」と気持ちに共感すれば、相手は安心して心を開く。心を開いてくれれば指導を受け入れようという気持ちになるため、成果も出やすくなる。

魔法の質問

図3
図3

理由を受け止めたら、次は改善に導く。その際「人はやりたいことしかしない」ということを心に留めておきたい。満腹のときにご馳走を目の前にしても、食べたいとは思えない。つまり、自分が必要だと思わない限り、いくらお膳立てをしても、相手にとっては何のありがたみもないのだ。

 

そこで、自発的に目標を立てられるよう促していく。モチベーションアップに効果的な「魔法の質問」を紹介しよう。

 

1「どう良くなると思う?」

2「どうしたら出来ると思う?」

3「何からしていきたいと思う?」

 

この3つである。これらのポイントは以下の通りだ。

 

質問1…プラスの将来をイメージさせる。クレームを起こさない自分になったら、自分や職場メンバー、お客様はどうなるか。改善後の明るい未来を想像してもらう。

 

質問2…できなかった理由に注目させない。コミュニケーターがお客様と接する中で、お礼を言われる等の成功事例が必ずあるはずだ。「うまくいったのはどんな時?」などと問いかける。成功事例から、改善のヒントを見つけるよう促す。

 

質問3…具体策を自ら決めてもらう。例えば、「やってみたいと思うのはどれ?」「簡単にできそうなのは何?」と投げかける。自分でやると決めたことは、他人から指示されたことよりも行動に移しやすい。さらには、簡単にクリアできる小ゴールを設定することも大切だ。目標をクリアすれば、成功体験と自己肯定感を獲得することができる。

 

そして、最後に紙に書き見える化する (図3)。目標達成の期日も決めておく。そして、期日が過ぎたら必ず進捗確認をする。どんな小さなことでもよいので、前回よりできていることを見つけて褒める。小さな成功を積み重ねて、次の大きな目標に向かっていく原動力にするのだ。もしも、成果が出なかったとしたら、その理由を一緒に考え、もう一度策を練り直そう。

まずは自らを省みる

またも「論語」の一節であるが紹介する(図4)。私はいつも気にかけている。コミュニケーターへの自分の働きかけは足りているか、一方的ではないか、と。モチベーションが上がらないのは自分の責任だという視点から捉えれば、「理」も認めることができる。そして、コミュニケーターを責めることはできないはずだ。

 

指導と責めることは違う。それを今一度意識し、愛情と思いやりを持って育成をしていきたいものである。